第三話:三田小山町歩き、のススメ
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この数年、三田の町で気に入っている界隈がある。いまの町名でいうと三田一丁目、かつて三田小山町の名が付いていた一帯だ。
簡単に説明すると、キャンパスの裏手、オーストラリア大使館が建つ日向坂の向こうの崖下のあたりで、田町や三田の駅よりも麻布十番が近い。麻布十番の駅を降りたら十番温泉とかタイヤキの浪花屋・・・がある商店街の方に行かないで、大通りの反対側の首都高速の下をくぐる。と、古川に架かる小山橋という小さな橋があって、その先から小山商店街というひと筋の、昔ながらの横丁が続いている。
豆腐屋にフトン屋、クリーニング屋・・・実は半年くらい前まで、商店街の入り口の川際に"松山容子のボンカレー"のホーロー看板を突き出した、いい感じの八百屋さんがあったのだが、ここは最近惜しくもレオパレス調のマンションに変わってしまった。また、二軒あるクリーニング屋の一つは、ワイルドワンズ・島塚繁樹氏の御実家らしい。(島塚さんは先頃「三田小山町」をテーマにした唄もリリースされた)
そして、横丁の途中を右に折れた先に「小山湯」という古びた銭湯がある。ここの湯には二度ばかり浸かったけれど、創業は大正年代らしく、都心の銭湯の中でもかなり古参の部類に入るという。五年位前まで銭湯の並びに「小山館」という下宿屋が残っていて、なんでも小山館の建物は、初代小山湯の棟を改築したときに出た材木を使って建てた・・・との伝説を聞いた。興味のある方は、河出書房新社から出ている「東京消えた街角」(加藤嶺夫)という写真集に昭和43年当時の小山館と小山湯をとらえたスナップが載っている。おそらく、小山館には往時の慶大生たちが何人も下宿していたに違いない。(この"120"のサイトを読まれているOBのなかで、小山館に下宿していた・・・という方、ぜひ御一報をお寄せください)
さて、小山商店街は百メートルくらい行くと、L字に折れ曲がったような格好で終了する。このL字の角にある閉店状態のタバコ屋の前に、少し前まで"昔懐かしい路端のゴミ箱"がそのまま放っぱらかしになっていたのだが、これもいつしか撤去されてしまった。
ゴミ箱が出ていたタバコ屋の先に「讃岐会館」という、知る人ぞ知るホテルがある。讃岐、の名のとおり、ここは香川県人会の宿泊施設だった所で、その昔は武家屋敷→真珠王御木本氏の屋敷・・・といった歴史を辿ってきた土地らしい。二十年ほど前から一般向けのビジネスホテルとして開放され、僕も一度泊まったが庭園の一画に「御田神社」の旧称などが残っていてなかなか面白い。そして、さすが香川県人会が運営しているだけあって、レストランのウドンは絶品!
讃岐会館の門前の通りには、いまや珍しくなった襖(ふすま)屋や螺子(ねじ)工場・・・なんかも並んでいる。そう、かつて古川の周辺は、螺子をはじめとした金属部品工場のメッカ、だったのだ。
三田のキャンパスに通っていた時代、目もくれなかった界隈だが、五十の声が聞こえてくる年頃になると、六本木ヒルズやお台場よりもこういう場所が面白い。皆さんも久しぶりに三田に来た折には、ぜひ足をのばして散策してみて欲しい。
※ちょっとした宣伝になりますが、拙著・「東京ディープな宿」(中央公論新社)のなかに、小山町界隈散策の模様を詳しく記述しております。ご一読を・・・。 |
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